韓国の中年男はつらいよ!?

COLUMN

KNTVで9月に日本初放送がスタートする『曲げない男、ク・ピルス』は、フライドチキン屋を営む中年男性のク・ピルス(クァク・ドウォン)が主人公。かつては大手企業で表彰されるほどの成績を誇るサラリーマンだったが、家族のために一念発起し、フランチャイズチェーンのオーナーとなった人物だ。

実際、韓国にはこうしたフランチャイズのチキン屋が多い。チキン+ビール(韓国語で맥주/メクチュ)の“チメク”は、韓国ドラマのファンにはおなじみの言葉だろう。もともと韓国人に人気のメニューだが、2013年のドラマ『星から来たあなた』でブームが再燃。フライドチキン専門店に、ビールも合わせて提供する店を加えると、2019年で8万店を超えるとか。当時の日本のコンビニ店舗数が6万店弱だから、韓国の人口は日本の半分ほどと考えると、いかにチキン屋が多いことか!

チキン屋を経営する中年男性が主人公の『曲げない男、ク・ピルス』は9月23日(金)日本初放送スタート! ©2022 KT StudioGenie Co.,Ltd All rights reserved

 

とはいえ、どの店も長く繁盛するわけではない。韓国の飲食・宿泊業の平均存続期間は3年ほどだという。店の移り変わりは日本以上に激しいのだ。それでもなぜ韓国人は開業するのだろうか?

韓国には「五六盗」「四五定」「三八線」という言葉がある。2013年に法改正が行われ、現在の韓国では法的な定年は60歳。それまでは55歳だった。五六盗〔오륙도/オリュクド〕は「56歳を過ぎても会社に残るのは給料泥棒」という意味。しかし、現実には50代を迎える前に職場から追いやられることが多く、45歳が事実上の定年といわれる。それを表したのが、四五定〔사오정/サオジョン〕という言葉だ。さらには「38歳まで会社にいられれば幸い」という意味で、三八線〔삼팔선/サムパルソン〕とも……。なんとも厳しい言葉ばかりだ。

会社に入ったからといって安泰ではいられない、それならいっそ……といったところだろうか。

こうした風潮の始まりは、1997年のアジア通貨危機に遡る。韓国のドラマや映画でたびたび描かれる、いわゆる「IMF時代」だ。韓国が通貨危機に陥り、次々と企業が倒産。多くの人が突然、職を失った。その後、自営業者の割合は30%近くにものぼったという。2021年に19.9%(韓国統計庁)ともっとも低くなったが、日本は約12%(経済協力開発機構)なので依然として非常に高い割合といえる。

厳しい現状はサラリーマンだけではない。専門職にもある。

『内科パク院長』の8話には、パク院長(イ・ソジン)が代行運転を頼んだ運転手が、実は外科医だったというエピソードが出てくる。医師になって16年だが、出世が望めず医局を辞めたものの、夜間当直か老人施設でのアルバイトくらいしか仕事がなく、生活のため代行運転をしているという人物だ。また、小さな町で開業した先輩医師が、経営難で夜間診療を始め、休みなく働いた末に過労死したというエピソードも。現役医師によるウェブ漫画が原作で、実話をもとに描いた『内科パク院長』。開業医の知られざる日常がリアルに綴られている。

新米開業医の奮闘を描いた『内科パク院長』は11月27日(日)・12月4日(日)に一挙放送! ©TVING Co., Ltd, All Rights Reserved

 

近年、中年男性の悲哀を描いた韓国ドラマが増えてきているようだ。それだけたいへんな時代になってきたということだろう(もちろん日本だってたいへんだが)。

ドラマは時代を映す鏡――。ドラマを見ると、その国の今がよくわかる。

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